齊藤さんご一家
ご主人 篤隆さん(76歳)
奥様 奈々さん(77歳)
福井県大飯郡おおい町名田庄納田終。福井県の西南端に位置し、面積の九十七%を山林が占める。
この地は古く荘園時代から、おいしいお米の取れる名高い水田地域として知られ、それが「名田庄」という地名の由来になったと云われている。そんな名田庄で茅葺古民家に暮らす篤隆さんと奈々さんご夫妻にお話を伺ってきた。
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[wc_highlight color=”blue”]古民家暮らしのきっかけは何ですか?[/wc_highlight]
私たちは京都出身ですが、長く海外で仕事をしていました。サンフランシスコに一年、ニューヨークに三十年……。さまざまな国に行きましたが、オランダで茅葺の良さにふれ、定年後は帰国して茅葺の民家に住もうと思いました。
[wc_highlight color=”blue”]外国で茅葺屋根を見て日本の良さに気づいたんですね。[/wc_highlight]
ヨーロッパ各国にも、米国にも、茅葺の家がたくさんあります。あのマリー・アントワネットも、茅葺の田舎家を作ったそうですよ。夏は涼しいし、最高だと思いました。
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[wc_highlight color=”blue”]この家はどのように探されたのでしょうか?[/wc_highlight]
ニューヨーク在住中に、夏休みなどを利用し、三年ほどかけて京都周辺の奈良、兵庫、滋賀などの茅葺の家を探して回りました。最初から、茅葺屋根の家しか探しませんでした。
そ の途中で、京都からトンネルを抜けて福井県に入ったところの景色を見て、二人とも声を合わせ「アイガー北壁だ!」と。かつて一か月ほど過ごしたスイスのア イガー北壁の景色とそっくりで…大きさは全然違うけど(笑)深い谷と杉の山は、まさにそこでした。感動した私たちは、「もう、ここやなあ!」と、福井に暮 らすことに決めたのです。
親戚がしていた不動産業者でお寺が空き家になるという情報を得て、自分で見に行きました。それがこの家です。こんなところに住みたいなんて変わり者だと言われました(笑)。天保四年の墨書きがあり、それが正しければ築約百八十年です。
新しいお寺の工事が完成せず、なかなか入居できなかったり、敷地内にあったはずの大きな木が切られてしまっていたなどトラブルもありましたが、終始一貫、私たちはここが気に入っています。
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[wc_highlight color=”blue”]修理が必要だったのではないですか?[/wc_highlight]
茅葺屋 根を檜川(兵庫県神戸市)から来た職人さんに葺きかえてもらいましたが、太平洋側と雪国では、葺き方が違うのですね。雪が降った日、ベッドで寝ていたら 「ドーン!」と大きな音がして家が揺れました。穴があいて、雪が落ち込んできてしまったのです。あの時は驚きました。
今は、地元の職人さんに教えてもらい、冬になると近くの川のほとりで茅を刈って、簡単な補修は自分たちでしています。
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[wc_highlight color=”blue”]ここに暮らし始めていかがですか。[/wc_highlight]
最初は地域の人に私たちが受け入れてもらえるか心配だったけど、温かく迎え入れて頂けました。
日 本に帰ってきたのは一九九七年。夏に荷物をほどき、涼しく過ごせてとてもよかったです。しかし、初めての冬が来て、死ぬか生きるかというくらい寒かった! 洗濯物は乾かないし、これ以上どこに干すの?という感じ。これはもう死ぬで、と二人で言っていました。ストーブが一人に一つは必要だと思い二つ買ったので すが、足りません。囲炉裏があったので焚いてみましたが、暖まるまでに時間がかかるうえ煙がすごい!
映画などで、囲炉裏に大きな薪がパチパチなっているのを見るとかっこいいですが、大きい薪はなかなか火がつきません。家の庭の木を枯らして使ったり、桐の下駄を割って入れなんとか火をつけていました。
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[wc_highlight color=”blue”]インテリアが洋風ですが、不思議とマッチしていますね。[/wc_highlight]
この椅子は英国から、このシャンデリアはイタリアのもの。自分たちで世界各国を回って集めたインテリアです。いかに家を住みやすくきれいにするかは、インテリアにもかかっています。ニューヨークではインテリアデザインを職業にしている人がとても多く、影響を受けました。
[wc_highlight color=”blue”]田舎暮らしをしたい方へ伝えたいことはありますか。[/wc_highlight]
田舎に暮らすには独立心というか、自分というものを持っていないと生きていけません。
田舎は寂しいという人がいますが、田舎っていうところは寂しいに決まっています。自然や田舎は寂しいものです。自分もその一部だと思わないとやっていけません。
また、謙虚さも大事です。人間が自然に勝てるはずがありません。自然と共存する・周りの人たちと共存するという謙虚さも持っていなければなりません。
実際に暮らしてみて、田舎では、夫婦が仲良くなければ生きていけない、二人で一人前だということを実感しています。夫婦仲が良ければ作業の分担をするパートナーにも、良い話し相手にもなります。
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[wc_highlight color=”blue”]これからしたいことは何でしょうか。[/wc_highlight]
この家にいるととにかく自然の中にいる感じがします。人と人とのストレスがなくなり、いつも幸せを感じています。空気もお月様もきれい。元気になり、冬も風邪をひかなくなりました。京都に所用で行くこともありますが、すぐにこちらに帰ってきたくなります。
冬は雪かき、夏は草刈り、庭の剪定……することがいくらでもあり楽しくてしょうがありません。今年は、外側の壁の漆喰も自分たちで塗るつもりです。
二人で仲良く力を合わせてずっとここに暮らしたいと思っています。
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column][/wc_row]
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
居間をダイニングスペースに改装。いぶされた室内に英国やフランスの200年前の家具がどんと置いてあります。それが不思議と似合うのです。もともとデザインや美術館の仕事をされていて、インテリアに興味があり自分たちでコーディネートされたと聞きました。
日本と欧州、土地は違えど同じ年代の本物は合うのですね。ご夫婦もこの部屋がとても気に入られているようです。
[/wc_column][/wc_row]
古民家鑑定士・伝統再築士 松田沢弘さんより
茅葺のもとお寺を改装してお住まい。内部はヨーロッパの家具に囲まれ、お寺であったことは感じさせない。
和のたたずまいから室内に入るとヨーロピアン、それが不思議となじんでいる。このような活きた使い方が、本当の意味での再生だと思う。